2023.08.10 サラリーマン増税が決定されるとどうなるの? 『退職金の課税見直し編』 令和5年6月30日に政府税制調査会は中長期的な税制のあり方を示す答申を岸田首相に提出しました。財政収支の健全化や働き方が多様になっている現状を踏まえ、給与・退職金・年金に係わる税制を一体で是正する必要性を強調したものです。その中で「退職金の課税見直し」・「通勤手当への課税」などを検討している旨のやり取りが報じられて以降、「サラリーマン増税」という言葉とともに世間でも大きく騒がれるようになりました。 そこで、その中でも今回は「退職金の課税見直し」にテーマを絞り、仮に議論されている内容のような改正がなされた場合にどのような影響を及ぼすのかを見ていきたいと思います。退職金の課税見直しについては主に「退職所得控除額の見直し」が議論されています。 ■現在の退職所得の計算方法 まず、退職金を受け取った際の所得の種類は、「退職所得」となり、分離課税として他の所得とは区分し、税金の計算方法は以下の算式により計算されます。 (退職金-退職所得控除)×1/2 × 税率(約15%~55%) ■退職所得控除の計算方法 上記計算に用いる退職所得控除の計算は以下の通りです。 ・勤続年数20年以下の場合→40万円×勤続年数 ・勤続年数20年超の場合→800万円+70万円×(勤続年数-20年) ※勤続年数が35年の場合、退職所得控除の計算は以下の通りになります。 800万円+70万円×(35年-20年)=1,850万円 ■退職所得控除が見直された場合の税額への影響 ※仮に退職所得控除の計算で、「勤続年数20年超の控除額が70万円から40万円」に見直された場合 (例)退職金2,000万円 勤務年数35年のケース ①従来 (2,000万円-1,850万円)×1/2 ×税率(約15%) = 約11万円 ②見直し後 (2,000万円-1,400万円) ×1/2 ×税率(約20%) = 約50万円 ※40万円×35年 =1,400万円 結果、以前に比べて約40万円の税金を追加で支払わなければならなくなりました。またこちらは会社から支給された退職金だけではなく、iDeCoで一時金を受け取った方、小規模企業共済制度を利用して退職金を受け取った方も同様に対象となります。 ただ、それでも退職金は所得控除が厚く、分離課税で他の所得とは合算されない点や退職所得控除後の所得の2分の1を課税する点など税制上の優遇が大きいため、今回のような提言がなされたものと考えられます。多くの方の老後の生活設計に大きな影響を与える内容となるため、次回の税制大綱へどのように反映されるのか、今後の展開が気になります。 (記事の内容は作成日現在の法令・関係規則等をもとに作成しております。)